「凌霄宝殿」は關渡宮正殿の後方に位置し、近年の廟を代表する現代建築となっています。建築物は鉄筋コンクリートで造られていますが、天井の高い内部空間や、木彫作品に見られるこだわり、石彫作品の迫力に至るまで、すべてが關渡宮新世紀の代表作で、後世に残されるべき文化遺産と言えます。凌霄宝殿の建設は民国75年(西暦1986年)に遡ることができますが、木彫工事は民国82年(1993年)以降に施され、もともとセメントで造られていた作品を置き換えるために、名匠を招いて制作し、原料には上質な千年牛樟樹や檜木を使用しています。

  凌霄宝殿の木彫芸術は天井の華麗な「藻井」のほか、「神龕」の木彫装飾も見逃せません。「神龕」には大型の木材を用いて満遍なく彫刻を施し、全てが一体となった大型の木彫作品のごとく、見る者を感嘆させます。凌霄宝殿の木彫は三川殿や正殿のものと比べて、最大の差異はその精巧な彫刻と、上品かつ壮大な雰囲気にあります。精巧な彫刻を施す上で、民間工芸でも工芸美術でもその表現を左右するのは、一般的に工程・工法・原料と言われていますが、凌霄宝殿の施工には一流の工匠を招き、工程・工法・技巧については紛れもなくトップクラスと言えます。また、殿内の木彫の原料には貴重な千年牛樟樹と檜木が使用され、その特殊性から凌霄宝殿の質感を更に高めています。牛樟樹の木材は堅く、しっかりしているため、一般に伝統家具や精緻な彫刻に用いられます。当然ながら、堅い木材はそれだけ彫刻の難度も高まりますが、しっかりしているために緩みにくく、加工性に優れているため、精密な透かし彫りに向き、奥行きのある彫刻表現が可能となっています。

  殿内の木彫作品には原木の原色が残され、上品な雰囲気が漂い、三川殿や正殿の豪華絢爛で鮮やかな色彩の木彫とは、大きな対比を見せています。凌霄宝殿では殿前の天井にある「藻井」に施された「安金上彩」(金箔貼りと彩色)以外は、ほとんどの木彫に「安金上彩」を行うことなく、保護のために透明な漆を塗装しているのみで、原木本来の色味が残されています。このような手法は民国80年代に隆起した民芸風の影響を受けているほか、主には貴重な千年牛樟樹と檜木の美しい自然な木目を活かすためであって、伝統的な金箔や彩色で、色彩豊かな伝統作品が逆に本来の価値を損なうことから来ています。原木の色味を残すことでこれら材木の希少性と価値がより際立ち、単色であるがゆえの上品な美しさを醸し出しています。

  凌霄宝殿の木彫が見せる壮大な迫力は、二階建ての高さに及ぶ吹き抜けの天井と、木彫作品の一体性にあり、同時に施工にあたっては、体積・面積ともに巨大な上質の木材を使用し、凌霄宝殿全体の規模を構成しています。さらに、目に映るのは全て原木一色で、一階から二階の高さに聳え立つ「神龕」から、複雑で華麗な天井の「藻井」に至るまで、巨大な空間は精巧な木彫で埋め尽くされ、工匠の辛労が窺えると同時に、見る者の心を引き締めます。